千葉地方裁判所 昭和55年(ワ)68号 判決 1982年12月24日
原告
篠原けい子
ほか三名
被告
城井武次
ほか一名
主文
一 被告らは各自、原告篠原けい子に対し、二九一三万二四六一円及びうち二六一三万二四六一円に対する昭和五三年一二月二五日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告篠原三郎、同篠原美枝及び同篠原久美に対し、それぞれ一五〇万円及び右各金員に対する昭和五三年一二月二五日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
二 原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を被告らの負担とし、その余は原告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告ら
1 被告らは各自原告篠原けい子に対し、八〇〇〇万円及びうち七五〇〇万円に対する昭和五三年一二月二五日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは各自、原告篠原三郎、同篠原美枝及び同篠原久美に対しそれぞれ二〇〇万円及び右各金員に対する昭和五三年一二月二五日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言
二 被告城井武次
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決
三 被告地引圭一
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決並びに原告ら勝訴の場合につき担保を条件とする仮執行逸脱の宣言
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件事故の発生
昭和五三年一二月二五日午前零時〇五分頃、市原市郡本一九四七番地先の交差点において、被告城井武次(以下「被告城井」という。)運転の普通乗用自動車(千葉五六せ二五九九号―以下「第一加害車両」という。)と被告地引圭一(以下「被告地引」という。)運転の普通乗用自動車(千葉三三ろ三七二号―以下「第二加害車両」という。)が出合い頭に衝突し、第一加害車両に同乗していた原告篠原けい子(以下「原告けい子」という。)が負傷した。(以下、この事故を「本件事故」という。)
2 傷害の部位・程度
原告けい子は、本件事故により第五頸椎脱臼骨折、頸髄損傷等の重傷を負い、即日千葉労災病院に入院して治療を受け、昭和五四年六月二二日には神経症状が固定したものの、合併症により現在も入院中である。
原告けい子は、本件事故による後遺症として、四肢及び躯幹の高度の知覚麻痺及び運動麻痺並びに膀胱直腸障害が残り、排尿は持続導尿(カテーテル)によるほかなく、終身にわたり労働能力が得られず、歩行は全く不能で、日常生活において常に他人の介護を要するものと診断されており、自賠法施行令別表第一級に該当するものと判定されている。
3 責任原因
(一) 被告城井は、第一加害車両の所有者であり、自賠法にいう「自己のために自動車を運行の用に供するもの」に該当する。
また、被告誠井は、第一加害車両を運転して交通整理の行われていない前記交差点に差しかかつた際、左方道路から進行して来る被告地引運転の第二加害車両を認め、かつ、自車の進行道路の右交差点手前には一時停止の道路標識が設置されていたのに、右交差点の手前で一時停止せず、前方左右に対する注視を欠いたまま進行した過失により、本件事故を惹起したものである。
したがつて、被告城井は、自賠法第三条又は民法第七〇九条、第七一〇条により、本件事故によつて原告らが被つた損害を賠償する義務がある。
(二) 被告地引は、自己のために第二加害車両を運行の用に供していたものであるから、自賠法第三条により、原告らの右損害を賠償する義務がある。
(三) 被告らの関係は共同不法行為者であるから、被告らの損害賠償債務は不真正連帯債務としてそれぞれ別個独立であり、被告らは各自原告らの被つた全損害を賠償すべきである。
4 損害
(一) 入院雑費 七八万円
原告けい子は、本件事故当日から引続き現在に至るまで入院加療中であり、今後も入院を必要とするが、その間雑費として一日一、〇〇〇円、月額三万円を要する。本件では、そのうち二六か月分七八万円を請求する。
(二) 休業損害 九〇七万八七二〇円
原告けい子は、本件事故当時ホステスとして稼働し、平均月額三二万四二四〇円の収入を得ていたところ、本件事故により休業のやむなきに至つた。それによる損害は、本件事故当日から昭和五六年四月二五日までの二年四か月間で九〇七万八七二〇円となる。
(三) 逸失利益 五一一八万一一二二円
原告けい子は、昭和二四年二月三日生まれで本件事故当時二九歳であり、本件事故に遭わなければ六七歳まで就労可能であつたが、本件事故により労働能力を一〇〇パーセント喪失した。
昭和五六年四月二六日(三二歳)から四〇歳に達するまでの八年間は前記ホステスとしての収入額(月額三二万四二四〇円、年額三八九万〇八八〇円)を基礎とし、それ以後は賃金センサス第一巻第一表による女子労働者の平均賃金(昭和五四年センサスによる年額一七一万二三〇〇円に昭和五五年の上昇率六・六パーセント、昭和五六年の上昇率五パーセントをそれぞれ加算した一九一万六五七七円)を基礎とし、ホフマン式計算法により中間利息を控除して、原告けい子の逸失利益の現価を算出すると、次の計算式のとおり、五一一八万一一二二円となる。
(計算式)
3,890,880(円)×6.5886(8年の係数)=25,635,451(円)
1,916,577(円)×13.3288(35年-8年の係数)=25,545,671(円)
25,635,451(円)×25,545,671(円)=51,181,122(円)
(四) 介護費用 七一二九万五三〇四円
原告けい子は、前記後遺症により、終生常時完全介護を要する。昭和五三年簡易生命表によると原告けい子の余命は四九・五八年であるが、これを四九年とし、介護費用を一日八、〇〇〇円、年額二九二万円とし、ホフマン式計算法により中間利息を控除して、その現価を求めると、次の計算式により、七一二九万五三〇四円となる。
(計算式)
2,920,000(円)×24.4162(49年の係数)=71,295,304(円)
(五) 家政婦代 二三八三万四七〇〇円
原告けい子は、前記後遺症により家事労働も不能となり、原告美枝(昭和四八年八月二〇日生)及び同久美(昭和五一年三月一五日生)の身のまわりの世話もできないため、幼い同女らのために泊り込みの家政婦に家事万端を委ねているが、この状態は今後一〇年間は継続する。そのための費用は一か月二五万円、年額三〇〇万円を要するので、ホフマン式計算法により中間利息を控除して、その現価を求めると、次の計算式により、二三八三万四七〇〇円となる。
(計算式)
3,000,000(円)×7.9449(10年の係数)=23,834,700(円)
(六) 慰藉料
(1) 原告けい子 一七〇〇万円
原告けい子は、本件事故により長期間入院を余儀なくされたばかりでなく、前記後遺症のため一生働くことができず、妻として、母として、女性として、その精神的苦痛は甚大である。これに対する慰藉料としては一七〇〇万円が相当である。
(2) 原告三郎、同美枝、同久美 各二〇〇万円
原告けい子が本件事故により生命を侵害された場合に比肩すべき傷害を受けたため、夫である原告三郎、子である原告美枝及び同久美は、将来に対し多大の不安を禁じ得ず、甚大な精神的苦痛を被つた。これに対する慰藉料としては右原告らそれぞれにつき二〇〇万円が相当である。
(七) 弁護士費用 五〇〇万円
原告けい子は、本件訴訟の提起・追行を原告訴訟代理人本村俊学弁護士に委任し、第一審判決時に五〇〇万円を支払う旨約した。
(八) 損害の填補
(1) 原告けい子は、被告城井から、入院中の諸雑費として、昭和五五年二月末日までに合計四五万五〇〇〇円の支払いを受けた。これを(一)の損害に充当すると、入院雑費の残額は三二万五〇〇〇円となる。
(2) 原告けい子は、被告城井から、休業補償として、右期間中に合計一〇三万八八四八円の支払いを受けた。
また、原告けい子は、昭和五四年一月一日から昭和五五年三月三一日までの間に、労働者災害補償保険法に基づく休業補償給付として合計二九五万六七〇四円の支給を受けた。昭和五五年四月一日以降も同額(一日六、四八四円)の休業補償給付を受けるものとすれば、昭和五六年四月二五日までの三九〇日分は二五二万八七六〇円となる。
以上合計六五二万四三一二円を(二)の損害に充当すると、休業による損害の残額は二五五万四四一〇円となる。
(3) 原告けい子は、本件事故について自賠責保険金四〇〇〇万円を受領したので、これを(四)の損害に充当すると、介護費用の残額は三一二九万五三〇四円となる。
5 結論
よつて、被告ら各自に対し、原告けい子は、弁護士費用を除く未填補の損害一億二六一九万〇五三六円の一部七五〇〇万円とこれに対する本件事故当日の昭和五三年一二月二五日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金並びに弁護士費用五〇〇万円の支払いを求め、その余の原告らは、それぞれ二〇〇万円とこれに対する右同日以降各完済に至るまで右同利率による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する答弁
(被告城井)
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は不知。
3 同3(一)のうち、被告城井が第一加害車両を運転していた事実は認めるが、過失の点に関する事実は争う。同(三)は争う。
4 同4及び5は争う。
(被告地引)
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は不知。
3 同3(二)のうち、被告地引が第二加害車両の運行供用者である事実は認めるが、その余は争う。同(三)は争う。
4 同4(一)(二)は争う。同(三)のうち、原告けい子の生年月日及び年齢は不知、その余は争う。同(四)ないし(六)は争う。同(七)の事実は不知。
5 請求原因5は争う。
三 抗弁
(被告城井)
1 好意同乗
本件当時原告けい子が勤務していたキヤバレー「火の鳥」では、従業員は終業時に各々タクシーや電車で帰宅していたが、従業員の便宜を図つて、希望者に限り好意的に自動車で自宅まで無償で送つていたところ、本件事故は被告城井が右業務に従事中に発生したものであり、原告けい子については、好意同乗として三割程度減額されるべきである。
2 過失割合による責任の減縮
本件事故によつて生じた損害については、被告城井と同地引が過失割合に応じて賠償責任を分担すべきところ、本件事故は、被告地引が、深夜交通閑散な非市街地の直線道路を、制限時速四〇キロメートルをはるかに超える一二〇キロメートル余の高速で進行したために発生したものであり、被告城井が一時停止を怠つたとしても、被告地引がせめて通常考え得る時速五〇ないし六〇キロメートルで進行しておれば、同人が本件交差点に達するまでに被告城井は十分交差点を通過し終えられた筈であるから、被告地引の過失割合は七割以上と思料される。
3 損害の填補(弁済及び損益相殺)
(一) 被告城井の弁済
被告城井は、本件事故による損害の填補として、昭和五三年一二月二五日から昭和五五年二月末日までの間に、治療関係費五四万円、休業補償一〇三万八八四八円、家政婦付添費三八六万九三〇八円、付添人用ベツト、布団購入費五万円、入院諸雑費四五万五〇〇〇円、見舞金二五万円を支払つたほか、昭和五五年四月から昭和五六年一一月まで毎月一〇万円と同年一二月、昭和五七年一月各五万円の合計二一〇万円を損害金の内金として原告らに支払済みである。
(二) 搭乗者保険金
いわゆる搭乗者保険から、昭和五四年一二月二五日までの間に、五〇二万七五〇〇円が支払われている。
(三) 労災保険給付
労働者災害補償保険(労災保険)給付として、昭和五五年三月末日までに、療養補償給付七四八万三三九八円、休業補償給付二九五万六七〇四円、休業特別支給金九九万四〇六〇円が原告けい子に支給済みである。
(被告地引)
1 好意同乗
被告城井の抗弁1を援用する。
2 過失相殺
原告けい子は、被告城井が飲酒しているのを知りながら第一加害車両に同乗したものであるから、その過失を損害額の算定にあたり斟酌すべきである。
3 寄与度による責任の減縮
共同不法行為者のうちにその寄与度が著しく低い者がいる場合には、公平の見地から、例外的に、その者に対しては寄与度に応じた額のみの賠償を求めることができるにすぎないと解すべきところ、本件事故は、左右の見通しのよい交差点で、被告城井が一時停止義務を怠つて交差点に進入したことが最大にして唯一の原因であり、被告地引が被告城井主張のような高速運転をしていた事実はない。したがつて、被告地引の過失割合は二割、仮に百歩譲つても三割であるから、その限度において賠償責任を負担するにすぎない。
4 損害の填補(弁済及び損益相殺)
(一) 自賠責保険金
原告けい子は、被告地引加入の自賠責保険から傷害分一二〇万円及び後遺障害分二〇〇〇万円、被告城井側加入の自賠責保険から右と同額の保険金の支払いを受けた。右後遺障害分合計四〇〇〇万円は本件損害から控除されるべきである。
(二) 被告城井の弁済
被告城井の抗弁3(一)を援用する。
(三) 搭乗者保険金
被告城井の抗弁3(二)を援用する。
(四) 労災保険給付
(1) 昭和五五年三月末日までの分
被告城井の抗弁3(三)を援用する。
(2) 昭和五五年六月二三日までの分
原告けい子は、昭和五五年四月一日から傷病補償年金移行の前日である同年六月二三日まで(八四日間)休業補償給付として五四万四六五六円、休業特別支給金として一八万一五二四円を受給した。
(3) 傷病補償年金
原告けい子は、昭和五五年六月二四日以降傷病補償年金(年額三三八万二九〇四円のところ、同年八月以降増額されて年額三五八万五九〇〇円)を受給しているので、本件口頭弁論終結時までに受給した分が損益相殺されるべきは当然であり、それ以後に受給する分についても、原告けい子存命中は確実に支払われるものであるから、やはり損益相殺して控除されるべきである。
(五) 定期金賠償
原告けい子は、その症状からして栄養障害・消化管出血・尿路感染炎等の余病を併発し易い状況にあるので、当然余命も通常人に比して短く、したがつてその余命を少くとも何年という形においてさえ予測できないから、逸失利益、介護費用等については、一時払方式は認められず、同原告の生存期間につき定期金賠償によるべきである。
四 抗弁に対する答弁
1 被告城井の抗弁1及び被告地引の抗弁1は争う。キヤバレー「火の鳥」では、その業務の一環として、被告城井所有のマイクロバス(第一加害車両)で従業員を送迎しており、原告けい子は毎日出・退勤時にこれを利用していた。他の従業員も同様であつた。したがつて、被告城井の好意同乗の主張は理由がない。また、被告地引は右車両の運行、同乗については何ら関係がないので、同被告の右抗弁は主張自体失当である。
2 被告城井の抗弁2及び被告地引の抗弁3は争う。被告らは共同不法行為者であるから、それぞれが原告らが本件事故によつて被つた全損害について賠償責任を負うべきである。
3 被告地引の抗弁2は争う。
4(一) 被告城井の抗弁3(一)及び被告地引の抗弁4(二)の事実は認める。ただし、休業補償一〇三万八八四八円及び入院諸雑費四五万五〇〇〇円以外は、すべて本訴請求外の損害の填補にあてられたから、控除の対象とならない。
(二) 被告城井の抗弁3(二)及び被告地引の抗弁4(三)の事実は認める。ただし、搭乗者傷害保険金については、自家用自動車保険普通保険約款の規定により保険者の代位が否定されており、生命保険金と同様控除の対象にならない。
(三) 被告地引の抗弁4(一)の事実は認める。傷害分の合計二四〇万円は、治療費、付添看護料等本訴請求外の損害の填補にあてられたから、控除の対象とはならない。
(四) 被告城井の抗弁3(三)及び被告地引の抗弁4(四)(1)の事実は認める。ただし、療養補償給付は、本訴請求外の療養関係費の補償であるから、控除の対象とはならない。また、休業特別支給金は、損害の填補としての性格を有しないから、控除すべきではない。
(五) 将来の傷害補償年金についても損益相殺の対象とすべきであるとの被告地引の主張(抗弁4(四)(3))は争う。
(六) 被告地引の抗弁4(五)は争う。
第三証拠〔略〕
理由
一 本件事故の発生と原告けい子の負傷
請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、原本の存在と成立に争いのない甲第二、第四、第六、第八号証、第一〇ないし第一四号証、丙第三四号証の六、七、成立に争いのない甲第一八、第二四号証、昭和五五年九月一六日に原告けい子を撮影した写真であることに争いのない甲第一九号証の一ないし一六、原告けい子、同三郎(第一、二回)各本人尋問の結果を総合すると、原告けい子は、本件事故により第五頸椎脱臼骨折、頸髄損傷等の重傷を負い、即日長谷川病院を経て千葉労災病院に入院し、頸椎脱臼整復固定術等の治療を受けたが、四肢及び躯幹の高度の知覚麻痺・運動麻痺、膀胱直腸障害等の後遺障害が残り、昭和五四年六月二二日頃神経症状固定の診断がなされたものの、合併症により現在もなお入院中であること、そして、終身にわたり歩行不能、労働不能で、排尿も持続導尿(カテーテル)によるほかなく、日常生活全般について常時他人の介護を要するもの(後遺障害等級表第一級三号該当)と診断されていることが認められ、右認定に反する証拠はない。
二 被告らの責任
1 成立に争いのない乙第一号証、丙第二号証、第一〇ないし第一三号証、第一五ないし第一九号証、第二二、第二三、第二五、第二八、第二九号証、被告城井、同地引各本人尋問の結果を総合すると、被告城井は、本件事故当時訴外金ケ崎興と共同してキヤバレー「火の鳥」を経営していたが、閉店後自己所有の普通乗用自動車(第一加害車両)を使用して従業員(ホステス)をその自宅に送り届ける業務にも従事していたこと、本件事故当夜も被告城井が第一加害車両を運転して原告けい子らをその自宅に送り届ける途中(被告城井が右車両を運転していた事実は当事者間に争いがない。)、市原市郡本一九四七番地先の交通整理の行われていない交差点を白金町方面から郡本方面に向けて直進すべく時速約五〇キロメートルで差しかかり、右交差点手前で一旦時速三〇キロメートル位まで減速したが、八幡方面から村上方面に向けて進行して来る被告地引運転の第二加害車両を左前方七〇ないし八〇メートルの地点に発見したのに、右車両が右交差点に到達するまでに交差点を通過し終えられるものと軽信し、自車の進行道路の交差点手前に一時停止の道路標識が設置されていたにもかかわらずこれを無視して、時速約四〇キロメートルに加速して進行したため、右交差点中央付近で第二加害車両がその前部を第一加害車両左側部に衝突させる本件事故が発生するに至つたこと、一方被告地引は、その所有に係る第二加害車両を運転して、右交差点を八幡方面から郡本方面に向けて直進すべく、最高速度が時速四〇キロメートルに制限されている道路を時速約六〇キロメートルで進行中、見とおしの良い左右の交差道路を右交差点に向けて進入しようとしている被告城井運転の第一加害車両を右前方に発見したが、被告城井が前記一時停止の標識に従つて交差点手前で停止するものと軽信し、漫然同速度のまま進行したため、第一加害車両が前記のようにして交差点に進入して来たことに一七、八メートル手前で気づき、直ちに急制動の措置をとつたが及ばず、前記のように自車前部を第一加害車両左側部に衝突させ、その衝撃により第一加害車両をその進行方向右斜め前方の路外に逸脱させて横転させ、第二加害車両は、その前部を大破した上、衝突地点から進行方向左前方へ約一〇メートル進んだ地点で道路脇の農業用水路に車体後部を落す形で路外に逸脱、停止するに至つたこと、以上の事実が認められる。被告城井本人尋問の結果中右認定に牴触する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 右事実によれば、被告城井は、第一加害車両の所有者として自己のために右車両を運行の用に供していたものと認められ、他方、被告地引がその所有する第二加害車両を自己のため運行の用に供していたものであることは、原告らと被告地引との間において争いがない。
したがつて、被告らは、各自、自賠法第三条本文に基づき、本件事故によつて原告らに生じた後記損害を賠償すべき責任があり、右に認定した本件事故の態様に鑑み、被告らは、民法第七一九条第一項前段の共同不法行為者として、原告らに対し、その被つた全損害について連帯してこれを賠償すべき義務があるというべきである。
被告らは、その過失割合又は寄与度に応じた賠償責任の減縮を主張する(被告城井の抗弁2、被告地引の抗弁3)けれども、いずれも理由がなく、採用できない。
3 被告らは、原告けい子について好意同乗を理由として責任の減縮を主張する(各抗弁1)。しかしながら、前掲丙第二二号証、成立に争いのない丙第九号証、原告けい子、被告城井各本人尋問の結果を総合すると、前記キヤバレー「火の鳥」では、閉店後深夜で帰宅のための交通手段のない従業員(ホステス)のために送迎用の小型マイクロバス(第一加害車両)を用意し、さきに見たように主として被告城井がその運転業務に従事していたこと、本件事故当夜、被告城井は、第一加害車両に原告けい子を含む六名位のホステスを乗せ、途中四名位をそれぞれの自宅付近で降ろした後、原告けい子をその自宅に送り届ける途中で本件事故が発生したこと、以上の事実が認められる(右認定に反する証拠はない。)のであつて、右事実によれば、原告けい子は、キヤバレー「火の鳥」の経営者たる被告城井らが従業員確保の見地から運行していたものと推認される送迎用自動車を利用したにすぎないと認められるから、第一加害車両の運行を支配・管理していたとは到底認められず、従つて、被告地引に対する関係においてはもちろんのこと、被告城井に対する関係においても、自賠法第三条にいう「他人」性を失わないというべきであリ、被告らの右主張は理由がなく、採用するに由ないものというほかはない。
三 過失相殺
被告地引は、原告けい子が被告城井の飲酒運転を知りながら第一加害車両に同乗したとして、その過失を損害額算定にあたり斟酌すべき旨主張するので判断するに、前掲丙第二二号証、原告けい子、被告城井各本人尋問の結果によれば、被告城井は、本件事故の二、三時間前に「火の鳥」の客からすすめられてビールをコツプに二、三杯飲んだこと、原告けい子は被告城井の右飲酒の事実を知つていたことが認められるけれども、本件全証拠をもつてしても右飲酒によるアルコールの影響が本件事故の一因をなしたことを認めるに足りないから、原告けい子が被告城井の飲酒の事実を知つて第一加害車両に同乗した事実をもつて損害額算定にあたり斟酌すべき過失と認めることはできない。被告地引の右主張は理由がない。
四 損害
1 原告けい子の損害
(一) 入院雑費
前に見たように、原告けい子は、本件事故の発生した昭和五三年一二月二五日から現在に至るまで千葉労災病院に入院中であり、その間入院雑費として一日六〇〇円、月額一万八〇〇〇円を要したものと認めるのが相当である。してみると、原告ら主張の二六か月分の入院雑費は四六万八〇〇〇円となる。
(二) 休業損害及び逸失利益
成立に争いのない丙第二〇号証、第三〇号証の四、原告三郎本人尋問の結果(第一回)により原本の存在と成立を認め得る甲第一五号証(丙第四一号証)、弁論の全趣旨により原本の存在と成立を認め得る丙第四〇号証、原告三郎(第一、二回)、同けい子各本人尋問の結果を総合すると、原告けい子は、昭和二四年二月三日生まれで本件事故当時二九歳の健康な主婦であつたこと、原告ら一家は自動車運転手として働く原告三郎の収入だけで生計を維持できる状態であつたが、早く自分の家を持ちたいとの希望から、その資金を貯えるべく原告けい子が昭和五二年一〇月頃から市原市内でキヤバレーホステスとして働くようになつたこと、原告三郎らとしては、五年間位で貯金が目標額に達した後は原告けい子は勤めをやめる計画であつたこと、原告けい子は、昭和五三年一〇月六日からは前記キヤバレー「火の鳥」に勤務し、本件事故前月額平均三二万四二四〇円を下らない収入を得ていたが、本件事故による負傷、入院のため休業のやむなきに至つたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。そして、前示認定の原告けい子の負傷及び後遺障害の部位・程度、現在の症状に照らすと、原告けい子は、本件事故により労働能力を終生にわたり一〇〇パーセント喪失したものと認めるのが相当である。
してみると、原告けい子は、本件事故に遭わなければ、その年齢、本件事故前の稼動状況、右認定の生活設計等からして、本件事故後少なくとも四年間はホステスとして稼勤し、その間本件事故前と同程度の収入をあげることができ、その後六七歳に達するまでの三四年間は少なくとも一般女子労働者の平均賃金と同程度の収入をあげることができたものと推認するのが相当である。
しかして、原告けい子がホステスとして稼勤し前記のような収入をあげるためには、衣裳代、化粧品代等の必要経費の支出を要したものと考えられるところ、その金額を具体的に確定し得る証拠は存しないけれども、ホステスの職業の特殊性に照らし、収入額の少なくとも三割をもつて必要経費と認めるのが相当である。
そこで、ホステスとして稼勤し得たものと認められる四年間については、前記本件事故前の平均月収額から必要経費を控除して原告けい子の得べかりし年収額を求めると二七二万三六一六円となり(計算式324,240(円)×(1-0.3)×12)、その後の三四年間については、昭和五五年賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・女子労働者(三〇歳~三四歳)の平均賃金年額二〇〇万三六〇〇円に昭和五六年の上昇率五パーセントを加算した二一〇万三七八〇円を得べかりし年収額とし、以上を基礎とし、ライプニツツ方式により年五分の中間利息を控除して、原告けい子の休業損害及び得べかりし利益の本件事故発生時の現価を算出すると、次の計算式のとおり、三七六八万四〇一五円(円未満切り捨て)となる。
(計算式)
〔272万3,616(円)×3.5459〕+〔210万3,780(円)×(16.8678-3.5459)〕=3768万4015.9(円)
なお、原告らは、原告けい子が家事労働に従事できず、泊り込みの家政婦に家事を委ねることを余儀なくされるとして、そのために要する一〇年間の費用(家政婦代)の賠償を求めているが、原告けい子が家事労働に従事できないことによる損害は、同人が労働能力を喪失したことによる損害に包摂され、後者が填補されることにより当然に填補されるものであるから、右労働能力喪失による休業損害及び逸失利益の賠償を認めるべきこと前叙説示のとおりである以上、これに加えて右家政婦代の賠償を求める原告らの主張は失当である。
(三) 介護費用
前掲甲第一三、第一四号証、第一九号証の一ないし一六、第二四号証、原告三郎(第一、二回)、同けい子各本人尋問の結果を総合すると、原告けい子は、幸い精神機能には障害がないものの、前示後遣障害のため下半身が完全に麻痺していて歩行能力が全くなく、移動は車椅子によるほかないこと、また、右手は、手首から先が完全に感覚を失つていて物を持つことができず、腕も曲げたままで辛うじて上下運動ができる程度であるが、左手はわずかに拇指の機能が残つているため、これを使つて軽い物ならば持つことができ、フオークや箸を使つて辛うじて独力で食事をとることができるまでに機能が回復したこと、しかし、衣服着脱の動作は全くできず、臥位で身体をずらすことが若干できるものの、寝返りや座位で身体をずらすことは全く不能であり、車椅子の乗降りや入浴等には他人の介添を要すること、そして、リハビリテーシヨン訓練の効果も右のような程度にとどまり、これ以上の効果は期待できないと診断されており、原告けい子は何時でも退院できる状態にあること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
右事実によれば、原告けい子は、本件事故による後遣障害のため、起居の動作や移動さえも独力ではできない身体となり、回復する見込みがないのであるから、退院後も終生他人による介護を必要とし、その費用を支出せざるを得ないものというべきである。(なお、原告けい子本人尋問の結果によれば、入院中の付添看護は、労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付としてなされていることが認められる。)しかして、右認定の原告けい子の症状から考えて、必ずしも終日看護婦等の職業的介護者による介護を必要とするものとは認め難く、原告三郎ら近親者の介添で足りる部分も少なくないと考えられること等を勘案して、右介護費用は一日あたり四〇〇〇円、年額一四六万円と認めるのが相当である。そして、昭和五三年簡易生命表によれば、原告けい子と同年齢(本件口頭弁論終結時三三歳)の女子の平均余命は四六年であるから、以上を基礎とし、ライプニツツ方式により年五分の中間利息を控除して、右介護費用の現価を算出すると、次の計算式のとおり、二六一〇万四八〇〇円となる。
(計算式)
1,460,000(円)×17.8800=26,104,800(円)
(四) 定期金賠償の主張について
被告地引は、原告けい子はその症状からして当然余命が通常人に比して短く、それを現時点において予測することすらできないから、逸失利益、介護費用については一時払方式は認められず、いわゆる定期金賠償によるべきである旨主張する。しかしながら、原告けい子の症状からして通常人に比して余病を併発し易いということは言えるとしても、直ちにその余命が通常人よりも短く、平均余命を全うし得ない蓋然性が高いとも断じ難いところであるのみならず、たしかに定期金賠償方式には一斑の合理性が認められるけれども、その実効性の裏付けとなるべき債務者の担保供与や判決後の事情変更ことに貨幣価値の変動に対処できる変更判決等の制度的裏付けを欠くわが法制のもとでは、直ちにこれを採用することは困難というほかなく、少なくとも原告らが一時払いによる賠償を求めている本件においては、これを採用するに由ないというべきである。したがつて、被告地引の右主張は採用できない。
(五) 慰藉料
原告けい子は、本件事故による負傷のため長期間の入院を余儀なくされ、幸い精神機能には障害がないものの、前示後遣障害により歩行不能となり、終生働くことができないばかりか、夫である原告三郎や幼い原告美枝らの身のまわりの世話もできない身体になつたものであり、その被つた精神的苦痛は甚大であると認められる。しかして、原告けい子に本件事故発生について何らの過失も認められないこと、同人の年令等本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すれば、原告けい子の右精神的損害に対する慰藉料は一五〇〇万円が相当と認められる。
(六) 弁護士費用
弁論の全趣旨によれば、原告けい子が本件訴訟の提起・追行を本村俊学弁護士に委任し、同弁護士に対し相当額の手数料及び報酬の支払いを約しているものと認められるところ、本件事案の内容、請求額、認容額、当裁判所に顕著な弁護士会の報酬等基準規程等諸般の事情を勘案すれば、右弁護士費用のうち三〇〇万円を本件事故と相当因果関係のある損害として被告らに賠償させるのが相当である。
2 原告三郎 同美枝及び同久美の損害(慰藉料)
前掲丙第二〇号証、成立に争いのない丙第二一号証、原告三郎本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告三郎は原告けい子の夫であり、原告美枝は右両名間に昭和四八年八月二〇日出生した長女、原告久美は昭和五一年三月二五日出生した二女であるところ、原告けい子が本件事故により前示認定のような重傷を負い、長期間の入院を余儀なくされたため、この間原告三郎にとつても、幼い原告美枝ら(本件事故当時五歳と二歳)にとつても、一家団欒の機会を奪われ、憂苦に満ちた日々であつたものと推認されるばかりでなく、近い将来原告けい子が退院しても、前示のような極めて不自由な身体であるために、原告らの家庭生活には多くの苦難が伴うものと十分推測でき、本件事故により原告三郎、同美枝及び同久美が被つた精神的苦痛は原告けい子が死亡した場合に比肩すべきものと認めるのが相当である。しかして、右精神的損害に対する慰藉料は、右原告三名につきそれぞれ一五〇万円が相当と認められる。
3 損害の填補(弁済及び損益相殺)
(一) 自賠責保険金
原告けい子が被告ら加入の自賠責保険から合計四〇〇〇万円の保険金(後遺障害分)の支払いを受けた事実は、原告の自認するところである(被告地引との間では争いがない)。したがつて、原告けい子の前記弁護士費用以外の損害は、右金額の限度で填補されたというべきである。
(二) 被告城井の弁済
被告城井の抗弁3(一)(被告地引の抗弁4(二))の事実は当事者間に争いがないところ、このうち治療関係費、家政婦付添費及び付添人用ベツト・布団購入費は、本訴請求対象外の損害の填補ないし実費の立替えとして支払われたものであることが弁論の全趣旨に照らして明らかであるから、控除の対象となり得ないものというべきであり、これ以外の支払金すなわち休業補償名下の一〇三万八八四八円、入院諸雑費名下の四五万五〇〇〇円、見舞金名下の二五万円及び損害金内金名下の二一〇万円、合計三八四万三八四八円が、原告けい子の前記弁護士費用以外の損害に充当されるべきものというべきである。
(三) 塔乗者保険金
被告城井の抗弁3(二)(被告地引の抗弁4(三))の事実は当事者間に争いがない。
ところで、塔乗者傷害保険は、自動車保険契約に付帯する特約として付保されるものであるが、被害者が保険契約者として保険料の払込みをするものでない点において、生命保険契約や傷害保険契約とは異なる法的性質を有するというべきである。しかし、当裁判所に顕著な自家用自動車保険普通保険約款によれば、塔乗者傷害保険は、主契約たる自動車保険契約の被保険者が塔乗者に対して法律上の損害賠償責任を負担すると否とに拘りなく、定額に準ずる金額の保険金が支払われるもので、その意味において一種の見舞金としての性質を有するものと考えられる上、保険金が支払われた場合においても、塔乗者保険の被保険者たる塔乗者又はその相続人がその傷害について第三者に対して有する損害賠償請求権は保険会社に移転しないものとされていて(約款第一〇条)、いわゆる保険者の代位が認められていないところからしても、損益相殺の対象となるべき利得にあたらないものと解するのが相当である。したがつて、原告けい子が支払いを受けた塔乗者保険金五〇二万七五〇〇円を損害額から控除すべき旨の被告らの主張は採用できない。
(四) 労災保険給付
(1) 被告城井の抗弁3(三)(被告地引の抗弁4(四)(1))の事実は当事者間に争いがなく、前掲丙第三〇号証の四、後掲甲第三四号証の一、二、九並びに弁論の全趣旨によれば、原告けい子は、昭和五五年四月一日以降も傷病補償年金移行の前日である同年六月三〇日までの九一日間について休業補償給付(一日につき六、四八四円)の支給を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
してみると、昭和五五年三月三一日までの休業補償給付二九五万六七〇四円とその後の休業補償給付のうち五四万四六五六円、合計三五〇万一三六〇円については、原告けい子の前記弁護士費用以外の損害額から控除するのが相当である。
被告らは、療養補償給付及び休業特別支給金についても損益相殺の対象とすべき旨主張するけれども、前者については、本件請求の対象外である療養関係費の補償として給付されたものであることが弁論の全趣旨に照らして明らかであるから、これを控除の対象とすべきでないことは多言を要しないし、後者については、社会保障的見地から行われるところの労働者災害補償保険法第二三条の規定に基づく労働福祉事業として支給されたものであり、損害の填補としての性質を有しないと認められるから、これを損益相殺の対象として控除するのは相当でないというべきである。
(2) 次に、原本の存在と成立に争いのない丙第三四号証の一、二、八ないし一〇、弁論の全趣旨により成立を認め得る丙第三五号証の一ないし八並びに弁論の全趣旨によれば、原告けい子に対する労災保険給付は昭和五五年七月一日以降傷病補償年金に移行し、年額三三八万二九〇四円(月額二八万一九〇八円)が支給され、その後右年金額は、同年八月以降年額三五八万五八七八円、昭和五六年二月以降年額三五八万五九〇〇円、同年八月以降三八二万二七〇〇円に順次増額されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
しかして、労働者災害補償保険法(昭和五五年法律第一〇四号による改正前のもの)第一二条の四によれば、労災保険給付の原因となる事故が第三者の行為によつて生じた場合において、政府が受給権者に対し先に保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、受給権者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得し、逆に、受給権者が当該第三者から先に損害賠償を受けたときは、政府はその価額の限度において保険給付をしないことができると規定し、受給権者に対する第三者の損害賠償義務と政府の保険給付とが相互補完の関係にあり、同一事由による損害の二重填補を認めない趣旨を明らかにしているが、右のように、政府が保険給付をしたことによつて受給権者の第三者に対する損害賠償請求権が国に移転し、受給権者がこれを失うのは、政府によつて現実に保険給付がなされて損害が填補されたときに限られるものであり、たとえ将来にわたり継続して保険給付のなされることが確定していても、現実に給付がなされない以上、受給権者の第三者に対する損害賠償請求権が填補される効果が現実化するものではないから、受給権者が第三者に対して損害賠償を請求するにあたり、将来の給付額を損害額から控除することを要しないと解するのが相当である(最三小判昭和五二・五・二七民集三一・三・四二七参照)。
してみると、前記傷病補償年金中本件口頭弁論終結時に接着する昭和五七年一月までに原告が現実に受給した合計五七七万九一四六円の限度において、被告らに対する同原告の前記弁護士費用以外の損害賠償請求権が填補されたというべきである。
4 以上に基づき原告けい子の弁護士費用を除くその余の損害額合計七九二五万六八一五円から右3(一)(二)(四)の填補額合計五三一二万四三五四円を差し引くと二六一三万二四六一円となるので、本件事故による同原告の未填補の損害額は、右二六一三万二四六一円と前示弁護士費用三〇〇万円との合計二九一三万二四六一円、原告三郎、同美枝及び同久美の本件事故による損害の額は、前示のとおりそれぞれ一五〇万円となる。
五 結論
以上の次第であるから、原告けい子の本訴請求は、被告ら各自に対し二九一三万二四六一円及びそのうち弁護士費用を除く二六一三万二四六一円に対する本件事故発生の日である昭和五三年一二月二五日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるので認容すべきであるが、その余は失当として棄却を免れず、また、その余の原告らの本訴請求は、被告ら各自に対しそれぞれ一五〇万円及び右各金員に対する右同日以降完済に至るまで右同利率による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるので認容すべきであるが、その余はいずれも失当として棄却を免れない。
よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項本文を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用し、なお、被告地引の担保を条件とする仮執行免脱宣言の申立は、相当でないからこれを却下することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 魚住庸夫)